これから展開する内容はあくまでも「一般論」と言うことでご理解いただきたい。もちろん何事にも例外はあるし、むしろ今回の話題はその方が多いのかもしれない。その点あらかじめお含みおきいただきたい。
大企業の経験者は、往々にして中小企業への転職を甘く見る傾向にある。特に部長職まで経験した者などは、「俺は大企業で部長をしていたのだから中小企業からはとても歓迎されていて引く手あまたに違いない」などと勝手に思い込んでいる節がある。
一方で、「うちは今後一切大企業(特に管理職)からの転職者は採用しない」と公言している中小企業の経営者は少なくない。「仕事(主に実務)が期待したほどできる訳でもないのに、給与とプライドばかりが高く、自分は専ら指示するだけで周りの従業員との協力関係も築けず、挙句の果てに経営ポリシーにまで口を出してくる面々」。そのように思われている大企業の管理職経験者はその経営者たちにとってたちまち「モンスター社員」となる。人材不足の折、なんとなく気乗りがしないままそのような人たちを採用しても「そもそも俺の能力が活かされる会社じゃない」などと悪態をつき早晩やめてしまうと言う。
なぜそうなるのか。
「一方的に大企業の管理職経験者だけを悪者にすることは問題の本質を見誤る」と私は思っている。
それは、そもそも同じ管理職でも大企業と中小企業とでは、「求められる人材像」が全く異なると言えるからだ。
大企業の管理職は、立場や部署により多少程度の差はあるものの、基本的に日々発生する業務は担当者に委ね、自身は与えられた職務権限を常に意識しつつ、大局的かつ経営的な視点をもって適切なタイミングで数多くの重要事項を判断・決定を下していくことなどが最重要の任務とされている。
したがって担当者に任せるべき目先の業務に自らが翻弄してしまい、適切なタイミングで本来求められる重要事項を判断・決定を下していくことができない管理職は社内外から「無能者」として烙印を押されことになる。
一方、中小企業の場合、通常「大局的かつ経営的な視点をもって適切なタイミングで各種重要事項を判断・決定を下していくべき社内の人物」は社長一人(もしくはせいぜい役員レベル)であり、たとえ管理職であってもそのような役割が求められることはほぼないと考えおいた方がよい。
一義的には「担当者をうまくマネージメントしつつ、自らが一担当者としての業務を率先して全うしていくこと」がおおかたの中小企業管理職の最大のミッションと言える。そのような中小企業の中において大企業の管理職のような振る舞いをしてしまうと、たちまち「厄介者」として烙印を押されることになる。
大企業の管理職は、一般的には「組織マネージメントや業務を的確に進めていく為のプロセスマネージメント」に優れていると言われている。また「専門特化された領域内の知識や能力」は極めて秀でている。しかしながら、その知識や能力は汎用性が低く、限られた業界内または社内でしか通用しないケースがほとんどである。
一方、多くの中小企業の経営者は、より汎用性の高い業務知識を有する管理職を欲している。一つ一つの知識がそれほど深くなくとも「営業、経理、財務、人事、労務、総務」など、一般的に企業として求められる必要事項に対応できる「マルチ人材」である。
もちろん業界によっては、大企業で培った「業界内の秀でた知識や能力」が認められ採用に至るケースもあるが、そのような転職は極めて少数派と言ってよい。
そのような人材は通常、業界内のさまざまな繋がり(しがらみ?)の中で出向や転籍、天下りの受け入れ、もしくは転職エージェント等による「一本釣り」で確保されるケースがほとんどであり、一般の転職マーケットから登用されることはほとんどない。そもそもそのような採用方法は「極めて非効率」と考えられているからだ。
一方、大企業の管理職経験者は「組織マネージメント力や業界内の秀でた知識や能力」が自らの「最大の武器」と考え、転職活動で自分を売り込むことになるが、採用する企業側の「冷ややかな反応」を目の当たりにし、大きな挫折感を味わうことになる。まさにこれが「雇用のミスマッチ」の現実をを痛感する典型パターンである。
さまざまな事情により、大企業から中小企業へ転職を希望する者は決して少なくないのが現状である。そのような方には、大企業と中小企業とでは「求められる人材像」が大きく異なっている事情をよく理解した上で、求職活動をされることをお勧めしたい。
実は、偉そうに語っている私も前職(大企業)にいるときには、恥ずかしながらそのことには全く認識を持てなかった。もし仮に今私が中小企業の管理職として採用される機会をいただいたとしても、その求められる任務を全うしていく自信はない。
前職を離れ事務所を立ち上げたことを契機に、多くの中小企業の経営者と交流させていただく機会をいただけたことで初めてそのことを認識し理解できたことを最後に補足しておきたい。
以上